みると通信:保佐人、補助人の代理権にまつわるお話
そもそも、「保佐人、補助人の代理権」ってどういうことでしょう?
後見の場合は、ほとんど判断能力を欠いた人が対象となるので、代わりに契約などをする人が必要です。後見人が選任されたら、日用品の購入などを除いて、後見人が本人を代理して行います。つまり、後見の場合は当然に代理権がついているのです。
一方、保佐の場合は判断能力がかなり衰えた人、補助の場合は判断能力に不安がある人を対象としているので、援助があれば自分でできることもあると考えられます。ですから、法律上は、当然には代理権はつきません。しかし、実際は銀行の口座を新しく作ろうにも、本人が適切に行うことができなかったり、本人が判断できず委任状がもらえなかったりでは手続が進みません。
そこで、保佐、補助の場合でも、範囲を特定して代理権をつけることができるのです。保佐人は、原則、法律で定められた重要な財産上の行為についての同意権と取消権が与えられるだけなので、代理権をつけるためには裁判所の審判が必要です。そして、代理権をつける場合は、本人の自己決定を尊重する観点から、本人が申し立てるか、代理権をつけることに本人が同意することが条件です。
補助の場合、補助の申立と同時に、どのような行為に代理権を補助人に与えて欲しいのかを選んで申し立てることができます。補助の審判は、同意権、代理権のいずれか、もしくは両方をつけることができますが、いずれも本人が申し立てるか、本人の同意が条件です。
例えば、本人の生活費を確保するため、本人が持っている不動産を売却するなど、不動産取引等を速やかに行う必要がある場合、施設に入所して身上監護を行う予定で、入所契約を代理した方がよい場合、交通事故の損害賠償請求をしなければならず示談交渉や、訴訟行為について代理権を与えておいたほうがよい場合など、本人の利益を守るため、援助の必要性にあわせて代理権の範囲を特定して申立てをします。重要な財産行為一般に他人の援助が必要な場合は、比較的広い範囲で代理権が認められることもあります。代理権の範囲に法律上の制限はありません。
申立ての書式には、代理行為一覧にチェックをするだけのものもあるので、利用すると難しいものではありません。(→書式)
では、「みると」で話題になった「保佐人・補助人の代理権」にまつわる気になる点をいくつかあげてみましょう。
典型的な代理権の範囲としては、「預貯金に関する金融機関との一切の取引」がありますが、第三者が保佐人や補助人になった場合に、本人の親族から、「通帳一冊くらいは本人に管理させて欲しい」と要望されることがあります。その口座で管理する金額が小さく、日常生活に関する支出にあてられている場合など、本人の能力を活かし、本人のプライバシーを保つ点からも、代理権を付与しない口座を残すことが適切な場合もあるかもしれません。
また、「相続に関する一切の事項」を代理権の範囲として選んだ場合、必要な戸籍等を取得して金融機関等に提示する必要がありますが、その契約の代理の範囲に「相続手続きに必要な戸籍の請求」までは認められない可能性があります。「住民票,戸籍謄抄本,登記事項証明書などの行政機関の発行する証明書の請求」についても代理権をつけておくと、手続きがスムーズにできます。
それから、よく問題になるのが、携帯電話の利用契約です。携帯電話の利用料金は、パケット通信などを利用したため、予想外に大きな負債となることがあります。保佐の場合、重要な財産に関する行為については、同意権と取消権がありますが、携帯電話の利用契約がこれにあたるのか、はっきりしません。あたるとしても、保佐人が選任される前に契約していた場合は、取り消すことができません。本人が携帯電話を制限なく使用し、思わぬ負債を抱えてしまっては、本人の利益を守ることができないため、「携帯電話利用契約の変更・解除」について代理権をつけて対応する必要性を感じています。「みると」としては、今後、本人の事情に応じて、代理権の範囲に、「携帯電話利用契約の締結・変更・解除」を加えることも検討していきます。