みると通信:事例3

アルコール依存症から認知症になった80才代男性の生活を維持するため、市長が申立をした事例

C さん

 類 型 : 補助  申立人 : 市長
年 齢 : 80才代  性 別 : 男性
疾 病 : アルコール依存症、認知症

申立の経緯

市営住宅で単身生活していた。平成14年ごろ、近隣住民から市に対し「本人がアルコール依存症による粗暴な言動や行動があり、対応に困っている」との通報があった。市の職員が自宅を訪問し、福祉サービスの利用を提案したが、本人は拒否。その後も市の職員が継続して関わり、平成18年ごろよりようやく福祉サービスの利用が始まった。
以降、本人はヘルパー等を利用して市営住宅で単身生活を続けていたが、アルコール依存症に起因する認知症の進行によって記憶障害や身体機能の低下が顕著となり、在宅での生活が困難になってきた。
本人の生活を維持していくためには金銭管理や福祉サービスの利用が必要で、また将来的には施設入所の可能性もあったが親族が関わりを拒否したため、市は後見制度の申立が必要と判断した。
本人には戸籍上、子供がいることが分かっていたが、全員に関わりを拒否されたため、市長よる申立が行われることとなった。
主治医の診断書の結果より、補助類型での申立となったが、代理権のうち「金融機関との取引等に関する事項」については、本人が不同意であったため付与されなかった。

補助人就任後

預貯金関係の代理権が付与されなかったため、補助人の主な業務は福祉・介護サービスの調整となった。市、ケアマネ、ヘルパーと連携をとり、本人の生活状況の確認と課題の整理を行った。在宅生活の継続について、財産管理に関する代理権の付与について、親族調査について等が主な課題として挙げられた。飲酒については、ヘルパーの介入により過度のアルコール摂取には至っていないとのことだった。
本人は要介護4であり、自宅である市営住宅の階段を上り下りすることもできない。また、体調不良を訴えて自分で救急車を呼び、病院に搬送されてはその先で通報の記憶をなくして「帰る」と訴えるなど、単独での在宅生活は継続困難と思われた。しかし、本人は施設入所には強い拒絶を示し、また入院についてはこれまでのトラブルを理由に病院側から拒否されたため、在宅での生活を継続せざるを得なかった。補助人として、毎月身上監護の訪問を行い見守りを行うこととした。またその際には担当法律職・福祉職が共に本人と面会を行うこととし、財産・法律面、福祉面の両方を確認して代理権・各種サービスの追加等の必要性があればすぐ対応できるよう努めた。
平成19年の秋頃には、本人が体調を崩しがちになりADLも低下したため、金融機関とのやりとりは本人からの委任を受けて補助人が行うようになった。
平成20年初旬、本人が病院に救急搬送された。本人が治療を拒否したためかかりつけ医に移動し診察を受けたところ、主治医より精神科での入院治療が必要との指示があったが、受け入れ先がみつからず再度在宅へ戻ることになった。入院・入所の受け入れが可能な施設を探しながら、往診可能な医師を手配し、在宅生活を継続。本人は一時小康状態になるも、回復することはできなかった。
同年、意識不明となり救急病院に搬送された。補助人として入院手続きを行い、医療行為については同意権限がないことを病院に説明し、医師の判断で医療行為をしてもらうよう調整をしていたが、その最中に急変して亡くなった。

本人死亡後

親族が関わりを拒否していたため、病院の依頼により、預けていた本人の荷物(通帳・現金等貴重品を含む)を引き取った。遺体については、病院との協議の結果かかわりのある葬儀社に安置を依頼した。
本人死亡の連絡を市に行い、親族の住所を確認。電話番号は分からなかったため、電報で知らせたところ、推定相続人から連絡があった。
推定相続人に経緯を説明したところ、「生存中は本人に関わるつもりはなかったが、死後の対応は親族としてしてもよい」と葬儀の主宰になることについて承諾を得た。また、その他の死後の処理(各窓口への届出、市営住宅の撤去等)も推定相続人が中心となって対応されるとのことだった。
補助人として、未清算だった介護サービス利用料・医療費等の清算を行い、補助人の報酬請求をした上で残余財産を推定相続人に引継ぎ、業務を終了した。