みると通信:事例 5

精神科病院入院中の60才代男性の相続手続きのため、市長が申立人になった事例

E さん

 類型:後見    申立人:市長
年齢:60才代  性別:男性
疾病:統合失調症

E氏の申立の経緯

E氏は統合失調症により昭和30年ごろから精神科に入院している。身体機能の低下が 顕著で寝たきりの状態。意思疎通も困難で回復の見込みはない。
本人の金銭管理(病院がやむを得ず行っている)と、亡姉の相続手続き、身上監護が課題となっていた。
E氏は6人兄弟。兄が一人生存中であり、他の兄弟は既に死亡。しかしその兄は、行政職員はもとより他者の関わりを拒否していた。
そのため、成年後見の申立て権限のある4親等内の親族に申立の協力依頼を行ったが、関わりを拒否したため市長申立となった。

E氏兄の申立ての経緯

E氏の後見人に当センターが選任された。後見人から兄に亡姉の相続について話し合いを求めようとしたが、全く話に応じず、判断を求めることも困難だった。
兄についてもなんらかの疾患が疑われ、病院受診を勧めたが本人が応じなかった。成年後見人が必要との見解となったが、診断がついていないために申立てが出来なかった。

数ヶ月後、兄が低栄養・脱水症状により倒れ緊急搬送され入院となった。加療により内科的な治療は終えたものの、被害妄想や幻聴がみられ、精神科病院に転院し、統合失調症の診断を受けた。診断がついたことで兄の申立てが可能となったが、弟は被成年後見人のため兄の申立てをすることは出来なかった。また、弟の成年後見人も、民法(第7条)に成年後見人が後見開始の審判(申立て)を出来るという規定がないため兄の申立ては出来なかった。弟と同様に協力依頼できる親族はおらず、市長申立に至り、当センターが選任された。

E氏、E氏兄後見人就任後

●財産管理面

・E氏、E氏兄双方の課題
亡姉の相続については、当センターが相続人双方の後見人であったため、利益相反することから、適切に遺産分割協議を行うためE氏に特別代理人選任の申立てを行い、弁護士が選任され相続手続きを行った。

・E氏兄の課題
兄は元々財産状況が把握できず、年金の受給手続き等も行っていなかったため、病院に緊急搬送され後見人が選任されるまでの間は、生活保護にて生計を賄っていた。
当センター受任後、年金の受給手続き(過去の年金についても遡って申請)を行い、保護費や税金滞納分の清算をおこなった。

兄が所有する自宅については朽廃状態にあり、周囲への危険性が極めて高いため、以前より本人が北九州市から是正勧告を受けており対応が必要であったが、本人が応じていなかった。被後見人の居住用不動産を処分するにあたっては、家庭裁判所の許可を必要とするため、処分に関する許可申請を家庭裁判所に行い許可を得た後、取り壊しを行った。
その後、更地になった土地については、売買を行い本人生活費として充当している。

●身上監護面

E氏は市長同意による医療保護入院であったため、成年後見人を保護者とする手続きを行った。兄についても、同様に当センターが保護者となっている。
双方共に月に1度、身上監護の訪問を行い本人への面会を行っている。
医療行為については本来、親族による対応が一般的だが、本件の場合は、双方とも親族は関わりを拒否しているため、キーパーソンとなる親族が存在しない。本人の体調が悪化した際の病状説明等は当センターが受けることとなった。その際、主治医から治療方針の同意について求められたが、第三者後見人には同意の権限がない旨を説明し、主治医の判断で治療してもらうよう依頼した。

先日E氏が死亡。本人の状態が悪化した時点で行政に相談したが、対応が困難との返答だったため、本来、死後の対応は権限外であるが家庭裁判所に相談の上、葬儀の手配・納骨堂の購入等、後見人にて対応を行った。遺産については、家庭裁判所への報告の上、推定相続人であるE氏兄の後見人である当センターが引継ぎを行った。