みると通信:任意後見制度について考えよう その1

はじめに

成年後見制度といえば、一般的には、判断能力が低下した人について、家庭裁判所が後見開始の審判をして後見人を選任する「法定後見制度」が思い浮かぶと思いますが、少し知名度は低いかもしれませんが、もう一つの制度として「任意後見制度」というものがあります。
「任意」という言葉のとおり、本人が判断能力低下前に後見人の予定者を選んでおくというもので、本人の「自己決定権」を尊重する新しい成年後見制度の趣旨を色濃く反映した制度として誕生しました。つまり、判断能力が低下したとき、自分の財産管理や身上監護について託せる人を、判断能力が十分なときにあらかじめ決めておいて、「もし判断能力が不十分になったときはお願いします。」という委任契約を結んでおくのです。この契約は本人と後見人の予定者との間で結ぶ任意後見契約といいます。

キーワードは「自己決定権」です。

この任意後見制度は、平成12年に誕生してから、年々活用されてきています。統計では、平成12年の任意後見契約締結件数が655件、翌13年が938件だったところ、毎年増加して、平成20年には7095件となっています。

そこで、この任意後見制度はどういうものなのか、そしてこの制度の課題や法定後見制度との関係など考えてみたいと思います。

任意後見制度とは

まず、任意後見制度のしくみを簡単にみてみましょう。

  1. 契約を締結する
    本人の判断能力が低下する前に、本人と任意後見受任者(後見人になる予定の人)が任意後見契約を結んでおきます。この契約は公証人が作成する公正証書で行わなければなりません。この任意後見契約は登記されます。
  2. 契約の効力が発生するとき
    本人の判断能力が不十分になったとき、家庭裁判所に申し立てて、任意後見監督人という任意後見人の仕事を監督する人を選任してもらいます。この申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者です。判断能力が不十分とは、補助開始の場合の判断能力と同程度か、それ以下を意味しています。
    本人以外が選任の申立をする場合は、原則本人の同意が必要ですが、本人が意思を表示できないときは必要ありません。この任意後見監督人が選任されたとき、任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は任意後見人となります。
  3. 任意後見人の事務開始
    任意後見契約の効力が発生すると、任意後見人は、契約内容に定められた本人の生活、療養監護や財産の管理の事務について代理権を有することとなります。任意後見人は、本人の意思を尊重して、本人の心身の状態や生活の状況に配慮しながら、その事務を行わなければなりません。任意後見人がきちんと仕事をしているかは、任意後見監督人を通じて家庭裁判所が監督します。

法定後見制度との違い

法定後見制度との大きな違いは、法定後見制度では、家庭裁判所が後見人を選ぶのに対し、任意後見制度では本人が後見人になる人を選ぶことができるという点です。自己決定権を尊重することが任意後見制度の大きな目的だからです。
それから、法定後見制度の場合は、後見人に取消権がありますが、任意後見制度については、取消権がなく、本人が自分で契約を結ぶなどの法律行為能力は制限されていません。
法定後見人には、財産調査・財産目録作成、支出金額の予定、後見終了時の計算などの義務がありますが、任意後見人にはなく、家庭裁判所への報告義務もありません。任意後見人は、直接的には家庭裁判所に監督されていないということになります。

少し、任意後見制度のイメージがつかめてきたでしょうか。
次回は、任意後見制度の運用において、しばしば生じている問題点についてみていきます。