みると通信:高齢者(認知症)の方の自動車運転免許(1)

みなさんは、高齢者の方の運転する車に遭遇し、「危ない運転だな…」「よく周りを見てないみたいだけど大丈夫かな。」と感じた経験はありませんか。

現在、高齢者における免許保有率は年々増加しており、これに伴って、75歳以上の運転者の死亡事故件数が、他の年齢層に比べて高くなっています。
事故の特徴でみると、運転に必要な記憶力・判断力の低下が原因とみられる出会い頭の事故や一時不停止による事故等が多くみられます。

そこで、今回は、“高齢者(認知症)の方の自動車運転免許”をとりあげてみたいと思います。

高齢化の進んだ我が国では、高齢者の方であっても自動車の運転をおこない、交通手段のひとつとすることは避けがたい現実です。しかし、前述のとおり、加齢とともにその運転には危険がともないますし、とりわけ認知症が疑われるようなか方が運転を行うのは大変危険なことです。

そのような現状に対処するため、「道路交通法」という法律の見直しが図られ、高齢者の方の自動車運転に一定の規制がかけられるようになりました。

まず最初に大幅な改正がなされたのは、今から約10年前の平成14年6月道路交通法改正でした。

これにより、「一定の病気にかかっている方等」は運転免許の試験を受けても免許がもらえない又は保留される、すでに免許を取得している人であれば免許の取消や停止がなされることとなりました。(第103条第1項)

この「一定の病気にかかっている方等」の病気には、認知症が含まれています。

続く平成21年6月にも同法改正が行われ、運転免許更新時における年齢が75歳以上の方は「認知機能検査」を受けなければならないこととされました。(第97条の2イ・第89条第1項)
そして、この検査結果にもとづき「高齢者講習」を受講します。

「認知機能の検査」(講習予備検査)では、記憶力や判断力の状態を判断する簡単な3つの検査がおこなわれます。

認知症検査の内容に興味のある方はこちら、警視庁ホームページ「認知症予備検査進行要領」を御覧下さい。実際に講習予備検査(認知機能の検査)を体験することができます。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S35/S35HO105.html

認知機能検査(講習予備検査)をおこなった結果、記憶力・判断力が「低くなっている」と判定され、過去1年以内もしくは免許更新後に特定の違反を犯した方には、専門医の受診(臨時適性検査)が義務付けられ、検査の結果、認知症と診断された場合には免許取消又は停止となります。

~参考~
特定の違反行為

○信号無視  ○一時不停止  ○徐行場所違反
○通行帯違反 ○踏切不停止 ○通行禁止違反
○進路変更禁止違反 ○しゃ断踏切立入り ○交差点優先車妨害 ○横断歩行者等妨害 ○通行区分違反(右側通行等)
○転回・後退等禁止違反 ○指定通行区分違反
○優先道路通行車妨害 ○交差点安全進行義務違反

この認知機能の検査(講習予備検査)で実際に免許が取り消されたり停止された方はどれくらいいるのでしょう。

警視庁の発表した統計によると、平成21年の施行から平成22年5月末までの1年間に、全国で39人が医師に認知症と診断され、免許が取り消されたということです。
さらに詳細にみていくと、認知機能の検査(講習予備検査)を受けた人数は762,773人で、その結果の内訳は次のとおりとなっています。

記憶力・判断力が

  • 「低くなっている」(第1分類)が 14,189人(1.9%)
  • 「少し低くなっている」(第2分類)が 188,935人(24.8%)
  • 「心配ない」(第3分類)が 559,649人(73.4%)

第1分類(14,189人)とされ、信号無視など特定の違反を犯し、臨時適性検査の対象になったのは102人で、そのうち28人が専門医から認知症と診断され免許の取り消しとなりました。
また、70歳以上の方は、免許更新時に「高齢者講習」等を受講することが義務付けられており、明らかに運転に支障があると判断された142人のうち、11人が認知症との診断を受け免許を取り消されました。
このほかにも、平成21年以降の免許証の自主返納者が急増しているという統計があり、道路交通法改正が自主返納を促す原因となっているようです。

70歳以上の方に義務付けられる「高齢者講習」及び75歳以上の方に義務付けられる「認知機能検査(講習予備検査)」並びに「高齢者講習」は、免許更新の半年前より受講することができますので、自動車運転に関してまだまだ大丈夫と思われている方でも早めに更新の準備をし、日頃の運転に対する安全性を確認するきっかけとされてはいかがでしょうか。