みると通信:高齢者(認知症)の方の自動車運転免許(2)
【認知症等の方が自動車運転を行っている場合の対応】
前回のコラムでは、高齢者(認知症)の方の運転免許に関する法的な整備をご紹介しましたが、お分かりいただけたでしょうか。
ただし、認知症の方の運転免許が制限されているといっても、まだまだ完全に行き届いている状況であるとはいえないと思います。
それに、ご高齢の方やすでに認知症を発症された方が、自主的に運転を自粛したり、免許を返納するといった行動をとってくれる場合は何の問題もありませんが、現実には周囲の心配をよそに車の運転を行っていることが多いのではないでしょうか。
認知症の方のご家族や後見人等に対して、本人が認知症であることを警察の公安委員会へ申告する義務が課せられているわけではありません。
しかし、本人の法定代理人である後見人等が何の対処もせず放置すれば、任務懈怠であり、万一本人が事故を起こし他人に損害を与えた場合に、本人に責任能力がない場合の監督義務者の責任(民法第714条)として後見人等が賠償責任を問われるという可能性がありますから、公安委員会へ申告しておくなどの対応はすべきでしょう。
また、認知症の症状が進み、本人の運転行動により自分や他人の生命に危険が及ぶといったような、深刻な事態が想定される場合、「精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律」という法律にしたがい、本人を精神科病院へ入院させるという強硬な手段を検討しなければならないかもしれません。具体的には、本人の状態により医療保護入院と措置入院が考えられます。
(1)医療保護入院
【要件】
「医療及び保護のために入院を要すると精神保健指定医によって診断された場合」
本人の同意がなくても、精神科病院の管理者は、「保護者または扶養義務者の同意」を得て、精神科病院等に入院させることができます。
(2)措置入院
【要件】
ア.「ただちに入院させなければ、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれがある」こと(自傷多害のおそれ)
イ.「2名の精神保健指定医の診察が一致した」こと
アとイの2つの要件を充たしたときに、本人の同意がなくても、都道府県知事または政令指定都市の市長が、本人を精神科病院等に入院させるという制度です。
このように、本人に病気としての認識がない場合は、車の運転が重篤な人身事故になる場合もありますので、行動制限としての入院も選択肢となり得るでしょう。
しかし、本人の意に反し入院を強制する方法は、でき得る限り避けたいですし、その適用については慎重に検討し、且つ他に何も手立てがない場合の最終的な手段とすべきです。
さて、次回は認知症の方の運転行動を、医療・福祉の観点より分析しその対応について考えてみたいと思います。
~知っておこう!認知症の方の運転事故と任意保険~
車の任意保険に加入している方が認知症となり、自動車事故を起した場合、認知症を理由に保険金が不支給になることはありません。ただし、本人に責任を問える状態であるのか(責任能力の有無)が問題となる可能性があり、本人に責任能力なし、と判断されれば後見人等の監督義務者が責任追及されます。後見人は本人が加入している保険の被保険者でない場合がほとんどですので、保険金はもらえないということになってしまいます。
また、現在は任意保険に加入できている方でも、認知症状がすすんでいる方は次の更新時には更新を拒否されるかもしれません。
最近では高齢者の方の自動車事故等が問題化しつつあり、保険会社も対応に迫られているようです。何か心配なことや疑問などがあれば、一度ご加入の保険会社に問い合わせてみるとよいでしょう。