みると通信:知っておきたい障害年金その2

前回に引き続き、障害年金の受給要件のうち、初診日要件について、判断が難しい事例や問題点をみていきます。

1 支給認定を受けるには

 精神障害の場合、発症していても精神疾患であると見極めて専門医の診断を受けるまでに時間がかかってしまうことがあります。そうして、専門医への受診が遅れている間に、20歳になってしまいそのまま国民年金への加入をを怠ってしまったり、会社を退職して厚生年金からはずれた後、国民年金への切替えがなされていなかったりして、公的年金の加入要件を満たさなくなることがあります。
そのような場合は、加入していた時期に障害の原因となった病気について医師に症状を訴えた何らかの資料を探します。例えば、内科を受診した際、カルテに気分の落ち込みや不眠を訴えている記録が残っていないか、学生時代に健康診断で精神疾患の前兆症状が観察れていた記録がないかなどです。しかし、そのよな資料があったとしても、支給認定を受けることは簡単ではありません。

具体的に裁判例をみていきますと、専門医から統合失調症の診断を受けたときに20歳を過ぎていて国民年金に加入していなかったことから、不支給決定を受けた方が、20歳に達する前に、不眠などの症状を訴え内科を受診していたことを根拠に、不支給決定の取消しを求めたという事例があります。
裁判では、一般的な病気と違い、統合失調症の前兆期は家族が気付かない場合もあり、専門医の受診例は少なく、確定診断がないとして支給を拒むのは許されないとして不支給決定を取り消しました(福岡地裁 平成17年4月22日判決 判例集未搭載)。

また、初診日要件をやや広げて解釈した裁判例もあります。20歳を経過して46日後に統合失調症の疑いがあると診断された男性が、診断を初めて受けて日までに国民年金に加入しておらず初診日要件を満たしていないため、不支給決定がなされていた事案です。裁判所は「救済を一律に排除するのは相当でない」と初診日認定の条件をやや広げて(1)20歳に接近しており、20歳前の発症が間違いないと判断できること、(2)20歳前に受診できなかったことに心身の状況、家庭環境など無理からぬ事情があること、(3)制度的混乱を招かないことという条件を満たす場合は、年金が支給されると判断しました(仙台高裁 平成19年2月26日判決 凡例タイムズ1248号130貢)。

2 学生無年金問題

平成3年4月以降、学生であっても20歳以上であれば皆、国民年金への加入が義務付けられています。つまり「強制加入」です。

しかしそれ以前は、学生が国民年金に加入することは制度上任意でした。そして、所得が低く保険料が納付できない場合、学生でなければ免除制度がありましたが、学生には免除制度がなく、任意加入すれば保険料を払わなければならない制度でした。そのような学生の任意加入制度は、ほとんど普及しておらず、加入率も1%強に過ぎませんでした。

そのため、20歳を過ぎた学生で、任意加入しないまま障害を負った場合、初診日に国民年金に加入していなかったとして障害年金を受給できない人が多数いたのです。さきほど紹介した福岡地裁と仙台高裁の二つの裁判例は、いずれもそのような「学生無年金問題」に関する事案です。

そもそも、20歳以上の学生については国民年金への加入が任意だったことが制度上の欠陥であったことを考えれば、上の二つの裁判例もうなずけます。

学生無年金問題の裁判では、このような学生の任意加入制度は憲法の平等原則や生存権の保障に違反していて、そのような不合理な法律を変えなかった国は損害賠償責任があるとの主張がされました。つまり、加入しなかったために、生涯に渡って不利益を被ることも、加入しなかったのだから仕方がないとは割り切れないという問題意識だと思います。しかし、最高裁判所は国会の広い裁量を認めて、障害により働けなくなる危険に備えて保険料を負担する実益が低いこと、免除制度があっても世帯主に十分な所得があれば免除されないこと、障害者に対する他の施策や生活保護制度もあることなどから、任意加入制度も不合理ではなく憲法に違反してないと判断しました。

裁判では、制度そのものは不合理ではないとされましたが、救済の必要性を感じて、上の二つの裁判例のように、柔軟な解釈で救済したのでしょう。現在は、立法によって一定の救済がなされ、学生無年金障害者などについては、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情にかんがみ、福祉的措置として「特別障害給付金制度」が創設され、請求した翌月から給付されるという救済法が施行されています。しかし、特別障害給付金の金額は障害年金の約6割程度であり、完全な救済とはいえないでしょう。

初診日要件だけでも、いろいろと問題があることがわかってきました。
次回は、納付要件、障害状態要件についてみていきます。