みると通信:法人後見における多職種連携について
法人後見と北九州成年後見センターの多職種連携について
1.はじめに
現在、様々な場面で「連携」といった言葉が使われています。例えば、各産業や各領域において、内部連携や外部連携、企業連携、官民連携、システム連携、地域連携など、一種のブームのようにも感じます。やはり、近年の社会情勢に影響した「不景気」「生活スタイルの多様化」「地域機能の低下」「契約社会の進行」などにより、社会ニーズや個人ニーズに対応していくことが単体では難しい状況であることが推測されます。産業界では、物づくりを行うのに企業同士が出資し合ったり、知恵を出し合ったりすることは、ひとつの方法論として確立しているようにも見えます。当然、我々が対象としている「生活のしづらさを抱える人」への支援についても、「個人の権利」を追求した制度、施策が実施されており、この権利を保障するために各専門家による連携は欠かせないものになっていると言えます。
今回は、実際に北九州成年後見センター(以下当センター)で非常勤福祉職として勤める立場から、法人後見と当センターにおける多職種について簡単に説明していきます。
2.当センターにおける連携
2000年に開始された成年後見制度では、財産保護の色が強かった従前の禁治産・準禁治産制度から「自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマラゼーション」の基本理念と「本人の保護」の理念を調和させることを趣旨とした制度へと変わりました。このことは、成年後見業務が財産管理のみだけでなく、生活全般に関して、その人(成年被後見人)らしい生活をサポートする意味をもつことを示しています。このことから成年後見人は、成年被後見人の最善の利益を追求出来る人、もしくは専門職でなければならないということが言えます。しかし、司法、福祉、医療…など、それぞれの領域に卓越した知識、経験などをもった人材がどれほどいるでしょうか。そこで、当センターでは、「法人」として成年後見人に就任し、現行のような法律職(弁護士、司法書士、行政書士等)と福祉職(社会福祉士や精神保健福祉士等)が連携して業務にあたる体制をとり、日々の後見活動を実施しているところです。
私は、福祉職として施設や病院などで長年勤めています。クライエントの理解から関係性を築き、個人のパワー回復やサービス調整によりクライエントの自己実現を図っていく仕事となります。ただ、成年後見活動は「自己決定と保護のバランス」を考えた業務となるため、施設や病院業務とはやや異なるスタンスで臨まなければなりません。個人で後見業務に従事する場合は、「財産の管理を適切に行えるだろうか」「親族同士でもめている相続問題にどう対応していくべきか」「自分の行動が権利侵害になっていないか」など不安な点、戸惑う点も多くあるというのが正直なところです。しかし、当センターでは、法律職、福祉職、事務局との協働であり、チーム内での情報共有後、総合的な判断の中で業務を専門的に分担できるため、上記のような不安や戸惑いは軽減されます。また、福祉職として法律業務の知識を学ぶ良い機会にもなっています。一方、法律職についても、「成年被後見人の生活安定を図るためには、どのサービスにどのように繋げればよいか」などの不安を持つ方も多いと聞きます。このことについても同様に当センターの多職種連携によりリカバリーが出来ていることになります。また、当センターを通じて専門職同士が知り合い、本来の業務(司法・行政・医療・福祉等々)の中でも、連携が計れるようになったという利点もあります。
このように、当センターによる取組みは、個人受任では物理的、心理的に負担になる部分のシェアリングを図ることが出来ます。また、本来求められるコーディネート力のある成年後見人の育成にも繋がっています。当センターの立ち上げの経緯についても、成年後見制度の趣旨をおさえ、各専門職の得意な知識、技術を出し合いながら成年後見業務を行うことで、成年被後見人に対して的確なサポートが実現できるのではないかという意図、期待が大きくあったと聞いています。
3.法人後見のメリット・デメリット
ここでは、多職種が連携して行っている法人後見の特徴からメリット・デメリットを考えてみたいと思います。
成年後見人業務は一度受任した場合、数年にわたって継続して業務に当たらなければなりません。特に、成年被後見人が青年・壮年期の障害者である場合は、その業務が数十年にわたることも想定されます。この点において、法人後見業務は、個人後見よりも継続性を維持しやすいと思います。なぜならば、法人後見の場合には担当者が代わっても、法人として継続的に実施できるという点で優れているからです。加えて、法人後見は、組織的な専門業務として後見業務を行うため、柔軟性・即応性(担当者が複数名存在しやすいため、スムーズに対応可能となりやすい)にも優れているといえます。また、法人後見の場合、個人後見に比べて多くのケースを受任することが可能であり、後見業務のノウハウの蓄積ができるため、より質の高い支援ができます。特に、法人が多職種で構成されている当センターのような場合は、法律及び福祉の両方の専門家のスキルを活用した支援が実現できることもあり、いわゆる困難案件への対処もできます。
他方、法人後見では、財政面と採算性に関する課題があります。理由として、法人は組織であり、運営を存続維持するための事務経費、職員人件費等の、支出すべき費用も個人後見よりも多くなりやすいからです。しかし、法人の場合では、個人後見よりも多数の成年被後見人を確保しやすいため、総額として採算が合えばよいと捉えることもできます。また、法人の目的にかなえば後見業務に特化せずとも、行政からの委託事業を受託したり、収益事業を行うなどして、多角的に業務を行い、収入を得ることもできます。
ただし、後見報酬は、家庭裁判所が成年被後見人の資産状況を鑑み決定されるため、安定した収入が期待できにくい点があります。また、後見報酬等は一定期間後見業務を行った後に家庭裁判所に申し立てを行いますが、後払いとなるため予算を立てにくいという運営的課題も生じます。
4.当センターの受任ケースの特徴と課題
当センターは、平成18年4月開設後から、累計で170ケース以上の受任実績があります。
受任ケースの特徴としては、大きく①後見人を受任する親族がいないなどの理由により第三者後見人の選任が必要、かつ本人の収入や資産が少なく、報酬を支払う資力に乏しい為、個人に受任してもらうことが困難なケース、②親族がいるが紛争がある、もしくは本人が虐待を受けているなどの対応困難ケースが挙げられます。いわゆる「継続した関わり」や「多職種による関わり」が必要とされているケースです。このようなケースを中心に、法人後見の選任は毎年増加を示しており、法人後見に対する社会的要請が高まっていると言えます。つまり、どの後見人が優れているという問題ではなく、少なくとも成年被後見人の実情に応じ、後見人を選択できる体制整備は必要かと考えています。
ご本人の状態も、認知症のみならず、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害等さまざまです。私達福祉職が、本来業務では対象としていない方たちの支援も求められます。おもに身上監護面では、本人が訴えるニーズ(人が生活するうえで必要な要素のうちでかけたもの)だけでなく、本人も気が付いていないニーズの把握が大切ですが、その対応技術の向上も必要です。更に、ニーズを充足するための社会資源や福祉サービスも、介護保険サービス・障害福祉サービス・難病等の福祉制度、国民健康保険・社会保険・後期高齢者医療などの医療制度、生活保護制度、など多様な知識も必要です。当初は戸惑いながらの出発でしたが、今では横断的な知識の蓄積や対応技術の向上がはかれていると自負しています。担当者のみが後見人業務を遂行するだけでなく、2カ月に1回は研修会や事例検討会を実施し、各専門職間で知識の共有や意見交換を行う中で、業務に関する見直しや振返りを行い、最善・最適な後見業務が行えるように検討を重ねています。
一方、複数体制の実践からみえてきた課題としては、3名体制での受任は重層的な関わりや個人の負担軽減等のメリットがある反面、(私のように福祉職が医療機関や福祉施設に所属する者も多いため)情報の共有や意思決定が迅速に行いにくいことも考えられます。
レンケイの表記には、「連携」と「連係」とがあります。「連携」は、同じ目的をもつ関係者が互いに連絡をとり合い、協力し合って物事を行うこと、「連係」は、機関、組織などがつらなり、つながりをもつことです。表面的に「連携をとっている」と言葉にするのは簡単です。ただ、その連携の結果がどうのように出ているのかが重要だと思います。やはり、形式的なものでなく、プロセスというものを意識しながら活動していくことが求められます。そういった意味では「つらなり・つながり」をイメージさせる「連係」という言葉も意識していく必要があるようです。当センターにおいても、課題部分の改善がなされるように検討を重ねていきたいと思います。