みると通信:「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律」について(その2)
「保護者」制度について
2回目は、改正で廃止された「保護者制度」について、その経緯や医療保護入院との関係について解説したいと思います。
(1)「精神保健福祉法」と「保護者制度」の経緯
ご承知のとおり、明治33年精神病者監護法においては「監護義務者」が設定され、そこでは、私宅監禁を「監護義務者」に義務付けしました。 また、昭和25年精神衛生法では、現在の医療保護入院の原型となる「保護義務者」の同意入院制度が創設されました。私宅監禁から強制入院に至るまで、 様々な形で家族等に義務を負わせる時代が100年以上続いてきたことになります。
名称 | 義務と役割 | ||
精神病者監護法 | 明治33年 | 監護義務者 |
【監護義務者】
後見人、配偶者、親権を行う父又は母、戸主、親族で選任した四親等以内の親族
【監護義務】
精神病者を監置できるのは監護義務者だけで、病者を私宅、病院などに監置するには、監護義務者は医師の診断書を添え、警察署を経て地方長官に願い出て許可を得なくてはならない。
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精神衛生法 | 昭和25年 | 保護義務者 |
【保護(義務)者】
後見人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者
【義務】
1保護(義務)者は、精神障害者に治療を受けさせるとともに、精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督し、且つ、精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。
2保護(義務)者は、精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力しなければならない。
3保護(義務)者は、精神障害者に医療を受けさせるに当つては、医師の指示に従わなければならない。
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精神保健法 | 昭和62年 | ||
平成5年改正 | 保護者 | ||
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 | 平成11年改正 |
【保護者】
後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者
【義務】
1保護者は、精神障害者に治療を受けさせ、及び精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。
2保護者は、精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力しなければならない。
3保護者は、精神障害者に医療を受けさせるに当たっては、医師の指示に従わなければならない。
〈自傷他害防止監督義務が削除〉
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(2)「保護者」制度と医療保護入院
今回の改正によって保護者制度自体は廃止されましたが、医療保護入院における同意は依然として家族に求められます。 「精神疾患の知識が少ない家族に医療保護入院の同意の権限を与えることが妥当なのか」「医療的ケアや介護等で負担がかかっている家族が、 入院に関して適切な判断ができているのか」「結果、本人と家族の関係性が不安定になることが多い」など、これまでも課題が指摘されてきました。
世界的に見ても、このように家族に義務を負わせる制度はありませんでした。また、その保護者としての義務を行うべき順位としては、成年後見人、 配偶者、親権者、扶養義務者の優先順位がありました。医療に関する同意は原則認められない成年後見人ですが、こと精神保健福祉法上での医療保護入院おいては、 家族がいても成年後見人や保佐人が保護者となり入院に関して同意をする(しなければならない)立場にあったという事実があります。
(3)「保護者」制度の見直し
今回の改正法の背景には、障害者権利条約批准(平成26年1月に批准)に向けた障害者基本法の改正を中心とした関連法の 整備が大きく影響していると言えます。改正法では、保護者の概念を取消し、医療保護入院にあたって、精神保健指定医1名の判断と家族等(※) のうちのいずれかの者の同意(優先順位はない)を要件とすると変更されました。同意した家族等が特別な義務や権利を持つなどの項目(上記記載、 保護者の義務等)は明記されていません。これらの変更目安の1つとしては、「精神科以外の医療と同じ程度での家族等の関与」ということがあります。 日本の医療おいては、同意能力のない者の代諾の役割は家族が担っているという実態があるため、これを基準にした考えだと思われます。
また、一方では、 精神科病院の管理者に、退院促進のための体制整備を義務づけました。ここについては、医療保護入院の課題が、入院の判断時だけでなく、 入院後の適切な医療提供と早期退院にもあることを前提とした対応であることが考えられます。
以上、部分的ですが、改正前後の法の内容を比較しました。みなさんは、今回の改正内容をどのように感じられたでしょうか? 「安易に入院者を増やしてしまうのではないか」「家族等の義務は本当に発生しないのか」「精神保健指定医の判断は1名で十分なのか」 「本当に人権が保障される制度になっているのか」などの感想を持たれた方もいるのではないでしょうか。実際のところ、一部の専門家からは 「家族等の負担は軽減しない」「専門的知見が少ない」「代弁者制度が適用されていない」などの意見が出ています。
※配偶者、親権者、扶養義務者、後見人又は保佐人。該当者がいない場合等は、市町村長が同意の判断を行う。
次回のコラムは、成年後見制度との関連について説明します。