みると通信:「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律」について(その3)

成年後見制度との関連について

最後に、今回の改正によって成年後見人・保佐人に求められる立場や役割について考えていきたいと思います。
改正法においては、医療保護入院の「同意者」の間に優先順位がありませんが、家族と成年後見人双方が存在し、医療保護入院に対する意見の相違が認められた場合どうするのでしょうか。 厚生労働省社会・援護局・障害保健福祉部精神・障害保健課が通知している「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律等の施行に伴うQ&A」(平成26年3月20日)では以下のような回答が示されています。

医療保護入院者が未成年である場合の親権者や、医療保護入院者が被後見人又は被保佐人の場合の後見人又は保佐人は、家族等の中でもその意見が優先されるのか。
法律上、医療保護入院の要件は精神保健指定医の判定と家族等のうちいずれかの者の同意であり、医療保護入院の同意を行う優先順位はない (精神保健指定医の判定があり、家族等のうち誰か1人の同意があれば、医療保護入院を行って差し支えない。)。なお、「医療保護入院における家族等の同意の運用について」 (平成26年1月24日障精発0124第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)6.及び9.は後見人又は保佐人が存在する場合は、 何らかの事情があって後見人又は保佐人が選任されている可能性があるため、トラブルを未然に回避する観点から、医療保護入院の同意を得る際には、その存在を把握した場合には、 これらの者の同意に関する判断を確認することが望ましいこととし、また、これらの者が同意に反対しているときには、その意見は十分配慮されるべきものとしているものである。
また、同通知10.は、親権者には、民法第820条に基づき身上監護権を有することから、その意見を尊重することとしたものである。

なんらかの理由で本人の入院に関して「家族が反対」し「成年後見人が賛成」した場合、改正法からすると本人は医療保護入院へ至ることになります。
また、「家族が賛成」し「成年後見人が反対」した場合においても、本人の医療保護入院は決定します。極端な例えで言えば、本人との関係が崩れている家族が本人を病院に連れて行き、 医療保護入院に同意した場合、「成年後見人が反対」を主張してもが非自発的入院が実行される可能性があるということです。ただし、この場合においては、 成年後見人が反対している理由を行政や医療機関は十分に配慮しなければならないとしています。

保護者規定が無くなったとはいえ、成年後見人や保佐人は、本人に医療保護入院の可能性が出てきた場合、常に同意の有無を判断せざるを得ない立場にあることがわかります。 保護者規定だけでなく、優先順位も無くなったことで安堵されている方がいたら、それは間違いです。

むしろ、これまで以上に本人を取巻く状況を正確に理解しなければならない立ち位置にいることになります。 成年後見人としては、原則、医療に関する同意ができない状況がありながらも

■本人の意思推測を追求する
■純粋な医療の必要性を吟味する
■家族、その他と本人との関係性を見直す
この点を見定めながら、意思の尊重及び身上の配慮の側面を持って総合的に判断をしていくものだと考えています。成年後見人の権利擁護機能がさらに期待されることになるため、 本来の成年後見活動が強化されることになるだろうと認識しています。
※補足:今回の改正法では、衆議院厚生労働委員会の可決時に、附帯決議がつきました。 その中に、「家族等いずれかの同意」による医療保護入院については、親権を行う者、成年後見人の権利が侵害されることのないよう、 同意を得る優先順位等をガイドライン(別紙参照)に明示し、厳正な運用を促すことといった項目があげられています。

最後に

今回の改正法のテーマは「権利保障」です。
そのことを意識した「保護者制度の撤廃」は意味があると考えています。しかし、非自発的入院のあり方や入院時の判断が今の体制で十分であるかということは断言できません。 指摘にもあるような「他の精神保健指定医の意見」「代弁者制度」があることが望ましいケースも出てくるかもしれません。一方で、精神保健福祉領域においては、 今日までの医療体制の見直しも大きな課題としてあげられてきました。今回の改正法では、精神科病院の管理者に、退院促進のための体制整備を義務づけています。
このことは、そもそも本人や家族に負担がかかってきた構図から脱却していくための「形づくり≒地域生活支援」に繋がっていくのではないかと考えています。ですので、入口だけでなく、 出口にも同時に着手した点は、評価される内容だと感じています。成年後見人としても、その視点を持って活動することが重要になってくると思います。

附則第8条においては、「施行後3年を目途として検討を行い、必要に応じて見直しを行う」と謳われています。まずは実践を積み上げ、出てくる課題に対して見直しをしていく姿勢が必要がとなります。