みると通信:成年後見制度とアドボカシー【第3回】

事例

最後にシステムアドボカシーの具体的な活動事例について取り上げてみたいと思います。
成年被後見人やその成年後見人、弁護団、支援者が社会に広く訴えかけ選挙権を回復していった活動は、まさにシステムアドボカシーと呼ばれるものです。本コラムの「被後見人等の欠格事項について知ろう」でも取り上げましたが、再度その過程を振り返ってみましょう。

公職選挙法の問題点

公職選挙法は、家庭裁判所から成年被後見人に認定されている人は、選挙権と被選挙権を有しないと定めていました。成年被後見人や成年後見人から、「成年後見制度は成年被後見人の収入・財産・契約を被後見人の代理者として管理することが目的であり、日本国憲法が定めている国民の権利である参政権の一つである選挙権を有しないと定めることは、憲法違反である」という民事訴訟が、2011年2月に東京地方裁判所に提起されました。

選挙権・被選挙権の回復

 2013年3月に、東京地方裁判所は、「成年被後見人の選挙権を制限することは憲法に反する」と、原告の主張を認める判決を下しました。さらに、2013年5月、成年後見制度で後見人が付いた者も、選挙権・被選挙権を一律に認める公職選挙法改正案が全会一致で参議院を通過し、成年被後見人の方々の選挙権・被選挙権の回復をみました。この改正法により、約13万6000人の成年被後見人が2013年7月に行われた参議院選挙へ参加できることになりました。

 選挙権回復を実現するまでに、各地の裁判所で訴訟を起こされた原告の努力や、原告側弁護士をはじめ多くの方々の支援があったことは想像にかたくありません。知的障害のある人やその親・家族、支援者らでつくる「全日本手をつなぐ育成会」の呼びかけに応じて集まった選挙権回復を求める署名は41万通になったと聞きます。

東京地方裁判所で、原告となったのは、50才代女性Aさんです。Aさんは、ダウン症で療育手帳を所持していました。Aさんの父親は、「親なき後のAさんの財産の管理」を案じ成年後見を申し立てます。それまでAさんは、選挙になると両親とともに投票に行っていたそうですが、後見開始の審判を受けた後、Aさんのもとには選挙はがきが来なくなったのです。選挙になると投票に行く両親を見送るしかなく、「選挙にいけなくなってつまらない。もう一度選挙に行きたい。」と訴えていたそうです。

「Aさん、どうぞ、選挙権を行使して、社会参加してください。堂々と胸を張って、良い人生を送ってください」―。東京地裁で成年被後見人選挙権訴訟の判決を出した後、裁判長は、原告のAさんにゆっくりと語りかけたそうです。

なお、裁判の原告になった方々は、「全国権利擁護支援ネットワーク」による第三回アドボカシーオブザイヤーを受賞されています。

■全国権利擁護支援ネットワーク
http://www.asnet-japan.net/index.html