みると通信:死後事務と郵便物の転送について(民法改正)
死後事務と郵便物の転送について(民法改正)
「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。
これまで、成年後見の事務をやる上で、いろいろと不便を感じていたことについて改善されました。変更点は大きく2つで、郵便物の転送と死後事務についてです。
【変更点】
①成年後見人が家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛の郵便物の転送を受けることができるようになったこと(民法860条の2、860条の3)
②成年後見人が成年被後見人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容及びその手続が明確化されたこと(民法873条の2)
1 郵便物転送について
これまで、成年後見人と成年被後見人が別々に暮らしている場合、成年被後見人宛の郵便物については、個別に郵送先を変更するか、成年被後見人に届いた郵便を成年被後見人宅まで取りに行って確認するしかありませんでした。しかし、成年被後見人宛の郵便物の中には、クレジットカードの利用明細や株式配当通知など、財産に関する郵便物も含まれているのですが、それをなかなか把握できず、財産管理を行う上で不便なことがありました。
そこで、民法を改正して、家庭裁判所の審判で、成年後見人に郵便物を転送できることとなりました。転送期間は原則6か月間を超えない期間とされており、財産関係を把握するのに必要な期間に限定することで、成年被後見人の通信の秘密を守ることに配慮されています。後見開始直後に、成年被後見人の財産を把握するために申し立てるケースが想定されていますので、後見開始から期間が経過してから申し立てる場合は、直後に申立てができなかった理由を説明することが求められるでしょう。当初の期間では財産関係を十分に把握できなかったやむを得ない事情がある場合は家庭裁判所に再度の郵便転送を求めることができます。決して、日常的に届く郵便物を長期間成年後見人に転送できるわけではありませんので、財産関係を把握した後はこれまでと変わらず成年被後見人自身が郵便物を受け取ることができます。
転送された郵便物は、成年後見人が開いて確認できることも明確になりました(民法860条の3第1項)。転送された郵便物のうち、後見事務に関係ないものは速やかに成年被後見人本人に交付しなければなりません(同条2項)。また、成年被後見人は、成年後見人が受け取った郵便物の閲覧を求めることができます(同条3項)。
転送の対象には「ゆうパック」は含まれていないため注意が必要です。
2 死後事務について
成年被後見人が亡くなった場合、成年後見が終了するため、成年後見人は原則として法定代理権を失います。つまり、原則として、成年後見人の権限がなくなりますので、財産の処分などはできなくなり、財産を引き継いだ相続人が対応しなければならなくなります。しかし、関わりのある相続人がいない場合や相続人への財産の引継ぎがすぐにできない場合などは、火葬や埋葬をする人がいなかったり、入院費の支払がすぐにできなかったりと不都合が多く、関係者からも成年後見人が対応することを期待されることが多くありました。成年後見人は、応急処分などとして死後事務を行ってきましたが、死後事務としてできる範囲が明確ではなく判断に迷うことも多かったと思います。そこで、成年後見人は、成年被後見人の死亡後にも、①個々の相続財産の保存行為、②弁済期が到来した債務の弁済、③火葬又は埋葬に関する契約の締結等などができることが明確になりました。
例えば、相続財産の建物に雨漏りがある場合の修繕、既に発生している医療費や公共料金の支払、債権の時効中断、債務を弁済するための成年被後見人名義の預貯金の払戻しなどが含まれます。これらの死後事務を行うことができる要件は、①必要性があること、②相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと、③相続人の意思に反することが明らかでないことです。さらに、火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為については、家庭裁判所の許可が必要になります。火葬や埋葬に関する契約のほか、債務の弁済のための預貯金の払戻し、相続財産を管理するためのトランクルームの契約、電気・ガス・水道などの解約などは家庭裁判所の許可が必要になるので注意してください。
このように死後事務ができることが明確化されたことで、逆にできないことが明確になったこともあります。例えば、葬儀を執り行うことは成年後見人の権限に含まれていませんので、参加者から会費を募ってお別れ会を開くなどの工夫が必要になります。
また、保佐人や補助人は、改正された規定の対象となっていませんので、死後事務を行う権限がないことが明確になったのではないかと懸念する声もきかれます。しかし、不都合な部分について改正されたため、これまで関係者の努力で円滑に行われていたことができなくなるのでは、困ってしまいます。
これまで応急処分や、相続人全員のための事務管理として対応してきたことが一切できなくなるわけではありません。今回の改正で明確にされなかった点について対応する必要が生じた場合は、これまでと同様に家庭裁判所と協議しながら進めていくことになります。