反致について【第1回】

日本法?本国法?

日本で生活している外国籍の人に適用される法律が日本の法律なのか、それともその外国籍の人の本国法なのか考えたことはあるでしょうか。
例えば、日本に在留資格のある外国籍の人が日本の会社で働く場合、
つまりその会社と雇用契約を結ぶ場合とか、同じく外国籍の人が日本で車を運転中に交通事故を起こして相手方に損害を与えた場合等、
適用される法律は当然に日本法で、外国籍の人の本国法が適用されるのかなんて考えたこと等ないと思います。

また、逆に日本国籍の人が海外で働いたり、交通事故を起こしてしまった場合、日本人だから日本の法律が適用されるとは考えないでしょう。
しかし、それぞれの国には、その国の法制度があって、どの国の法律を適用するかについてはそんなに簡単な話ではないのです。

反致(はんち)

ところで、日本では「法の適用に関する通則法(以下、単に通則法といいます。)」という法律があって、ある法律関係では、「その人(外国籍の人)の本国法による」とか、別の法律関係では「その法律行為に密接に関係がある地の法による」とか、さらには、「当事者が法律行為のときに選択した地の法による」など法律関係によって適用される法律(準拠する法律ということで、準拠法と呼ばれます。)が異なってきます。
さらにこの問題を複雑にするのは、通則法によって「本国法による」として一旦外国法が指定され、その外国法を適用して処理しようとしたところ、その外国の法律に「その法律行為に密接に関係がある地の法による」との定めがあれば、その結果、日本法が逆指名されるということも起こりうるのです。
これを「反致(はんち)」と呼んでいます。
このように関係する本人が外国籍を有する場合、その人と特定の法律関係が生じるような場合には注意が必要だと認識しておく必要があります。

 

このことは成年後見制度や相続手続きにおいてもそうです。具体例をいくつか挙げてみてみましょう。

まず、外国籍を有する本人の判断能力が失われたり、著しく減少して第三者による支援が必要となった場合、その本人が日本に住所や居所を有している場合には4親等以内の親族や市町村長の申立によって日本の家庭裁判所が後見開始の審判をすることができます(通則法5条)。
一方で通則法35条1項には、「後見、保佐、補助は、被後見人、被保佐人、被補助人の本国法による。」と定められていて、何がなんだか分からなくなります。しかし、心配は不要です。日本で後見開始の審判を受けた場合には日本法が適用されるとなっていますので、後見人などは日本の裁判所が指名した人(法人)が後見業務を行うことで支障はありません。