「意思決定支援」について~後見事務のガイドラインより~【第1回】

「意思決定支援」について~後見事務のガイドラインより~

みなさんは、『意思決定支援』についてご存じでしょうか。

障害や、認知症などによって、一人で物事をうまく決められないときもあります。決めるのに時間がかかったり、

本人にとって合理的ではない判断をしていたりすることもあり、支援者として「こうしたらいいんじゃない?」

と第三者の思いや考えを押し付けてしまいそうになるかもしれません。

ただ、障害や症状の程度にかかわらず、誰もが心の中にはしっかりとした意思を持っています。

本人の周りの支援者が連携し、その人が自分で決められるように支えていくことが『意思決定支援』です。

本人に関わる支援者らが常に、「意思決定の中心に本人を置く」という本人中心主義を実現するためには、意思決定支援についての共通理解が必要です。

平成29年頃から、様々な意思決定支援のガイドラインが策定されていきました。

今回のコラムでは、その中のひとつである「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」をもとに『意思決定支援』について考えてみましょう。

 

【意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインについて】

2017年(平成29年) 3月24日に、閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画で、成年後見制度の利用者がメリットを実感できる制度・運用へ改善を進めることが目標とされ、後見人等が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう、意思決定支援の在り方についての指針の策定に向けた検討が進められるべきであるとされました。

民法においても、後見人等が本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮することが求められています。しかし、実務においては、本人の判断能力が低下していることを理由に、本人の意思や希望への配慮や支援者等との接触のないまま後見人等自身の価値観に基づき権限を行使するなどといった反省すべき実例があったことは否定できません。

後見人等を含め、そこで、意思決定支援を踏まえた後見事務についての理解が深まるよう、最高裁判所、厚生労働省、日本弁護士連合会、成年後見センター・リーガルサポート及び日本社会福祉士会により構成される意思決定支援ワーキング・グループにおいて検討を重ね、 成年後見制度の利用者の立場にある団体からのヒアリング等の結果を踏まえつつ、ガイドラインが策定されました。

 

1 成年後見制度の現状

認知症や知的障害、その他の精神上の障害により、財産管理や日常生活等に支障がある人を社会全体で支え合うことが、高齢化社会における課題であり、かつ、共生社会の実現に資するものです。しかし、成年後見制度がそういった人々を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていません。

下のグラフで示す通り、成年後見制度の利用者数は近年増加傾向にあるものの、その利用者数は認知症高齢者や知的障害者、精神障害者の数と比較して著しく少ないのが現状です。

 

このような背景には、2000年(平成12年)の成年後見制度発足以来、財産保全の観点のみが重視され、

本人の意思尊重の視点が十分でないなどの課題が指摘されてきたことがあります。

そのため、今後、成年後見制度の利用促進を図っていくためには、本人の意思決定支援や身上保護等の福祉的な観点も重視した運用とする必要があります。