「相談支援事業所と相談支援専門員の役割について」(第3回)
成年後見人と協働した事例紹介
最後に、相談支援事業所が関わり、成年後見人と協働した事例を紹介していきます。
Aさんは60歳、20代の時に統合失調症の診断を受け、80代になる父親と二人暮らしをしていました。
掃除や洗濯、買い物、食事の準備、役所での手続きなど家のことはすべて父親が行い、
Aさんは時々父親と一緒にタクシーで買い物に行くことが楽しみでした。
しかし、ある日突然、自宅で父親が倒れ、驚いたAさんはすぐに近所の人のところへ知らせに行き、
駆け付けた近所の方が救急車を呼び病院へ搬送、一命をとりとめましたが、暫くの間入院治療とリハビリが必要な状況となりました。
心配した近所の方や親戚が、Aさんの主治医に相談、主治医から相談支援事業所に連絡があり、
相談支援専門員とAさんとの関わりが始まりました。
家のことは全くできないAさん、誰もが、父親が入院している間は、施設に入った方が良いのではないかと言いました。
しかし、Aさんは、「家で生活を続けたい。ここでお父さんが帰ってくるのを待ちます。」と自宅での生活を希望されました。
Aさんの希望をもとに、相談支援専門員、ヘルパー事業所、生活介護事業所、親族、近所の方が集まり、
これから自宅でAさんが生活していくために必要なこと、何かあった時の連絡体制などを話し合い、Aさんの「サービス等利用計画」を作成。
ヘルパーとデイサービスを利用しながら在宅生活を続けていくことが決まりました。
さらに、親族からは、将来のことを考え成年後見人の手続きを進めていきたいと相談があり、
相談支援専門員と親族とで成年後見センターを訪問。
成年後見制度の概要や、後見開始の申し立ての手続きのことなどの説明を受けました。
入院中の父親に認知症の症状がで始めたことから、父親に後見人を選任する手続きが進められ、後見人が選任されました。
その後は、Aさんの在宅生活を支援するサポートチームに、父親の後見人も加わり、
父親を自宅に迎えるにあたり自宅改修工事が進められ、Aさんも安心して自宅での生活を続けることができました。
今では、一人でタクシーに乗って買い物に出かけられるようになり、洗濯や掃除も上手になり、
これまで見られなかったAさんの力がみるみる発揮されるようになりました。
このように相談支援専門員は、ご本人の希望に基づいて、関係機関や身近な近隣住民の方などインフォーマルな支援者とも協力しながら、障害を抱える方ご本人が望む暮らしの実現に向けてともに歩んでいく伴走者です。
Aさんのように、介護者である親御さんの高齢化の問題は顕著になっており、
障害のある本人の暮らしをどのように支えていくかは社会的にも大きな課題となっています。
相談支援事業所は、障害がある方の権利を護り、様々な支援機関と連携しながらネットワークを構築し、障害をもった方の地域生活を支えています。
この事例では、障害を持った方の父親に後見人が選任された事例でしたが、成年後見制度を利用する方の低年齢化や多様化も進んでいます。
実際、統合失調症や知的障害をお持ちの方以外にも、発達障害やうつ病、双極性障害、アルコール依存症、てんかんによる障害等をお持ちの方が利用されることもあります。
第二期成年後見制度利用促進基本計画では、成年後見制度の利用者像が、家族等の支援がない一部の高齢者・障害者等から全ての国民となり、
計画目的も、利用者にメリットが感じられる制度から、すべての国民の権利擁護、尊厳のある本人らしい生活へと変更されました。
そのため、今後、後見人や保佐人、補助人の方々が、障害をお持ちの方の生活を支えるために、
相談支援事業所と関わる機会も少なくないと思いますので、今回、ご紹介した内容を参考にしていただければ幸いです。
参考資料
厚生労働省 障害のある人に対する相談支援について https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/soudan.html
公益社団法人 日本精神保健福祉士協会 精神保健福祉士のための相談支援ハンドブック
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 ―令和3年1月~12月―
第二期成年後見制度利用促進基本計画
なるほど!ジョブメドレー https://job-medley.com/tips/detail/4594/
WAM NET https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/
LIFE DESIGN https://recruit.life-design.okinawa/guide/
日本相談支援専門員協会 https://nsk2009.org/