成年年齢引き下げと福祉(第一回)

2022年4月1日から改正民法が施行され、成年年齢が18歳に引き下げられました。

しかし、成年年齢が18歳に引き下げられたということ、イコール、今まで20歳で線引きされていた法律(例えば少年法や未成年者飲酒禁止法・喫煙禁止法など)の対象者が一律に18歳に引き下げられるかというと、そういうわけではありません。

その理由は、それぞれの法律が20歳で線引きをしている目的(例えば、未成熟の考慮や健康被害の予防など)からということになります。

しばらくの間は混乱するかもしれませんが「成年」、「未成年」という区別が民法の成年年齢と必ずしも連動しているわけではないということを理解しておかなければなりません。

この線引き問題の概略については次のURLを参照してください(https://www.moj.go.jp/content/001261083.pdf)。

成年年齢引き下げについては関係する分野が広範囲にわたりますが、今回は、福祉分野に関連するであろうと思われる部分にフォーカスしたいと思います。

児童福祉法との関係

まずは、児童福祉法との関係です。

もともと児童福祉法では満18歳に満たない者を「児童」と定義して強い保護の対象としています。

お気づきと思いますが、成年年齢引き下げが行われる以前には「児童」でもない未成年者が存在していたのです。

ということは、満20歳に満たない18歳以上の未成年者は、障害児であれば障害者として総合支援法上のサービスを利用できますが、障害がない未成年者を保護する法律は存在していなかったといっても過言ではありませんでした。

その結果、児童福祉施設に入所している児童は、18歳に達すると、その施設を退所しなければならないにもかかわらず、退所後は親権者に親権を行使してもらわないと銀行口座の開設をはじめ自ら有効な契約を行うことができなかったのです。

つまり、一人暮らしをしたくても一人でアパートを借りたりすることはもとより、そもそも住民票を移す(住民基本台帳に登録すること)ことすらできなかったのです。

本来保護してくれる両親等から虐待を受けたり、養育を放棄されたりして適切に親権を行使してくれる大人に恵まれていなかったにもかかわらずです。

このような未成年者が親の親権から自由になるには、その親権を剝奪する手続きをとってもらって未成年者後見人を選任してもらうほかなかったのです。

以後、話を進めるにあたり、便宜的にこのような期間をグレーゾーン期間と呼ぶことにします。

 

今回の成年年齢の引き下げは、このグレーゾーン期間の問題を解消してくれることになりました。

つまり、これまでとは異なり、児童福祉法による保護を卒業した後は不適切な親権に服さなくてもよいということを意味しています。

というのも、18歳になれば法律上成年になり、その時点で親の親権は消滅してしまうからです。

ということは、これまでは、児童福祉施設を退所した以上、親権が剥奪されていない限り虐待を行ってきたのが親であっても、その親の同意がなければできなかったことが本人自身の意思だけでできることになったのです。

この意味でグレーゾーン期間中必要と思われていた成年後見人を就ける必要がなくなったということです。

児童福祉施設を退所した後は、一人で住民登録ができるし、預金口座も開設できます。

生活が成り立たなかった場合には、もちろん支援者が必要ですが、自ら生活保護を申請し、保護受給中に職業訓練を受けるなどして社会に出ることも自らの意思で可能となったということです。

 

しかし、良いことばかりではありません。

社会性が未成熟であっても、18歳で成年となるということですから悪徳商法や性風俗などの被害に遭ったとしても、契約時18歳以上であれば未成年を理由にその契約を一方的に取り消すことができなくなったということを意味していますので注意が必要です。