中核機関について(第一回)
認知症や知的障害、その他の精神上の障害により、財産管理や日常生活等に支障がある人を社会全体で支え合うことが、高齢化社会における課題であり、かつ、共生社会の実現に資するものです。
しかし、成年後見制度がそういった人々を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていません。そこで、平成28年5月に策定された「成年後見制度の利用促進に関する法律」及び「基本計画」に基づき、制度の利用促進のため、国は市町村に対し中核機関の設置を求めています。
中核機関とは、成年後見制度の広報や相談窓口の開設を行うほか、制度に関わる各種個人・団体の情報を集積し、相互の連携の強化を図ることを目的とした機関です。
今回のコラムでは、中核機関の必要性についてお伝えします。
1 中核機関の必要性
(1)成年後見制度利用促進にあたっての課題
成年後見制度は、判断能力が不十分である人について、 成年後見人・保佐人・補助人(以下「成年後見人等」「後見人」という。) がその判断能力を補うことによって、その人の権利を擁護するという点に制度趣旨があります。
今後、認知症高齢者の増加や単独世帯の高齢者の増加が見込まれる中、成年後見制度の利用の必要性が高まっていくことも考えられます。
しかしながら、以下のような課題が指摘されています。
○成年後見制度の利用者数は近年増加傾向にあるものの、その利用者数は認知症高齢者等の数と比較して著しく少ない。
また、成年後見等の申立ての動機をみても、預貯金の解約等が最も多く、 次いで介護保険契約(施設入所)のためとなっている。
後見・保佐・補助と3つの類型がある中で、後見類型の利用者の割合が全体の約80%を占めている。
→社会生活上の大きな支障が生じない限り、成年後見制度があまり利用されていないことがうかがわれる。
○後見人による本人の財産の不正使用を防ぐという観点から、親族よりも法律専門職等の第三者が後見人に選任されることが多くなっているが、第三者が後見人になるケースの中には、意思決定支援や身上保護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされているものもあると指摘されている。
○後見等の開始後に、本人やその親族、さらには後見人を支援する体制が十分に整備されていないため、これらの人からの相談については、後見人を監督する家庭裁判所が事実上対応している。しかし、家庭裁判所では、福祉的な観点から本人の最善の利益を図るために必要な助言を行うことは困難である。
このようなことから、今後の成年後見制度の利用促進に当たっては、制度の趣旨でもあるノーマライゼーション 、自己決定権の尊重の理念に立ち返り、改めてその運用の在り方を見直す必要が出てきました。
さらに、これまでの成年後見制度が、財産の保全の観点のみが重視され、 本人の利益や生活の質の向上のために財産を積極的に利用するという視点に欠けるなどの硬直性が指摘されてきました。そういった点を踏まえると、本人の意思決定支援や身上保護等の福祉的な観点も重視した運用と、今後一層、個々のケースに応じた適切で柔軟な運用を検討する必要が出てきました。
(2)今後の目標
成年後見制度利用促進のために、以下のような目標が掲げられました。
①利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善。
②全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、各地域において、従来の保健・医療・福祉の連携(医療・福祉につながる仕組み)だけでなく、新たに、司法も含めた連携の仕組み(権利擁護支援の地域連携ネットワーク)を構築。
③不正防止を徹底するとともに、利用しやすさとの調和を図り、安心して成年後見制度を利用できる環境を整備する。
④成年被後見人等の欠格事項を見直す。
上記の②にあるような、地域連携ネットワークを整備していくためには、その中核となる機関が必要です。
そのため、中核機関には様々なケースに対応できる法律・福祉等の専門知識や、地域の専門職等から円滑に協力を得るノウハウ等が蓄積され、 地域における連携・対応強化の推進役としての役割が期待されています。
北九州市成年後見支援センターでは、成年後見制度に関する相談や、成年後見人等からの相談を随時受け付けています。
制度について分からないこと、詳しく知りたいことや、後見等業務についての疑問などがありましたら、お気軽にご相談ください。
相談時間:月~金曜日 9:00~17:00
電話番号:093-882-9123(北九州市成年後見支援センター)
参考
厚生労働省「成年後見制度利用促進基本計画」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202622_00017.html