家族信託(民事信託)ってなんだろう?~任意後見制度との違いとは~(第一回)

近頃、テレビやインターネットなどで、『家族信託』という言葉を見聞きすることが多くなったのではないでしょうか。

 

『家族信託』とは、いわゆる「信託」の一種ですが、私たちに馴染みのある「信託」は、信託銀行や信託会社などが業として財産を預かり運用を行う、「商事信託」を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。

 

この営利目的で行う「商事信託」に対し、営利を目的としていない(業としていない)人に財産を託し、管理や運用してもらうのが「民事信託」です。平成19年の信託法改正によって信託の柔軟な活用が可能となり、利用する人の希望に沿った様々な形の信託契約を実現できるようになりました。

 

この中で、特に❝信頼できる家族❞に財産を任せるケースについて、『家族信託』と呼んでいます。

(なお、『家族信託』という呼称は、一般社団法人家族信託普及協会が商標登録しました。)

 

成年後見制度をご存知の方などは、❝財産を家族に任せて管理してもらう❞という点で、任意後見制度に似ているなぁと思われた方がいらっしゃるかもしれません。「信頼できる人に自分の財産を任せる」という仕組みは、任意後見制度も同じですよね。

 

では、任意後見制度と家族信託にはどのような違いがあるのでしょうか。今回のコラムでは「家族信託」がどのような制度なのかご紹介し、「任意後見制度」との違いについても取り上げたいと思います。

 

 

さて、任意後見制度と家族信託、どちらも判断能力が低下していないうちに自分の財産を託す人を決め、その人と契約を行う制度であることは同様ですが、まずは、それぞれの制度の概要を個別にみていきましょう。

 

 

任意後見制度

本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる人や将来その人に任せたい事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が契約で任された事務を本人に代わって行う制度です。

本人の判断能力が不十分になったら、本人または任意後見人が家庭裁判所に対して、任意後見を開始することを申立てます。すると、家庭裁判所より、任意後見監督人が選任されることによって、任意後見人の仕事が始まり、任意後見監督人は、任意後見人が契約の内容どおり、適正に仕事をしているかを監督します。

任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。

 

当事者:

◎本人

●任意後見人  ・・・本人の判断能力低下後の後見人

●任意後見監督人・・・任意後見人を監督し家庭裁判所に報告する人

●家庭裁判所

 

 

家族信託

本人(委託者)が十分な判断能力を有する時に、信頼できる家族(受託者)へ財産の管理・処分・運用を託す契約をします。この契約では、管理等を任せた財産から生じる利益や給付を受ける人(受益者)を決め、以後、受託者は、受益者のために、財産の管理等を行う、という内容となり、必ずしも公正証書で作成する必要はありません。

なお、財産から生じる利益とは、例えば、不動産からの収益(賃料)や株式の配当金などのことで、この利益を受け取る受益者は、本人自身でもいいですし、他の家族等にすることもできます。

 

当事者

◎委託者(本人)

●受託者 ・・・本人の財産を管理処分等行う人。任意後見制度での任意後見人にあたる。

●受益者 ・・・本人の財産より利益や給付を受け取る人。任意後見制度では、本人が利益や給付を受け取る。

 

その他任意に設定できる人

●信託監督人 ・・・受託者が適正に事務を行っているか監督する人。

必要なケース:受益者が受託者を監督できないなど

●受益者代理人・・・受益者の権利の一切を代理して行使できる人

必要なケース:受益者が幼い子供であるなど自分で権利行使ができない

●信託管理人 ・・・「受益者が現に存しない場合」に、受益者に代わって権利行使する人。

必要なケース:受益者が将来生まれてくる子供など、まだ受益者が存在していない

 

 

家族信託の例

★本人(母)が長男に、不動産の管理処分を委ね、認知症などの判断能力低下後も管理を継続してもらいたい。

★信託契約によって、母死亡後は、受益者を孫に変更する(二次受益者といいます)など、自由な取り決めをすることができます。

 

このようなケースのほかにも、財産の内容や家族の構成、本人の希望などにより、信託契約では、自由な取り決めをすることができます。

(他のケースについて、第三回のコラムでご紹介いたします!)