【第2回】アルコール依存症の診断と特徴について
第2回目は、アルコール依存症の診断基準と特徴について触れていきます。アルコール依存症は精神疾患の一つとして、治療を促す対象の疾患であり、その治療については保険診療の対象となります。
診断については、WHO(世界保健機構)が作成した診断基準「ICD‐10(国際疾病分類第10版)」を参考にすることができます。次のような診断ガイドラインを定めていて、過去1年間のある期間に、次の項目のうち3つ以上がともに存在した場合に、アルコール依存症の疑いがあるといえます。
診断ガイドライン
飲酒への強い欲望あるいは強迫感
- 仕事が終わる頃になると、常に酒のことを考えてしまう。
- 自宅に酒がないと落ち着かない。
- 飲めない状況でも隠れて飲酒してしまう。
- 仕事が終わると帰宅まで待ちきれずに帰りの車で飲んでしまう。
飲酒開始、飲酒終了、あるいは飲酒量に関して行動をコントロールすることが困難
- 今日はやめておこうと思っても飲んでしまう。
- 一杯だけと思って飲み始めても、あるだけ飲んでしまう。
- 翌日に朝から仕事があっても、二日酔いになるまで飲んでしまう。
- 内科疾患があり、医師から禁酒や摂取を指導されても飲み続けてしまう。
- 朝から晩まで飲み続ける。
アルコールを中止もしくは減量したときの離脱症状
離脱症状とは、アルコールによって脳の神経が抑制された状態が普通になってしまっているため、酒の量を減らしたり、やめたりしたときに出現する。大部分は数日のうちに回復するが、耐えられずに飲酒してしまう。
- イライラして落ち着かない。
- 下痢、頻脈、微熱、高血圧、発汗。
- 手が震える。
- 依存症が進行すると、全身の大きな震え、幻聴、幻覚、せん妄なども現れる。
はじめはより少量で得られたアルコールの効果を得るために、使用量をふやさなければならないような耐性の証拠
- だんだん酒が強くなり、かつてと同じ量では酔わなくなります。そのために、徐々に飲酒量が増える。
アルコールのために、それにかわる楽しみや興味を次第に無視するようになり、アルコールを摂取せざるを得ない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する。
- 飲酒のために、家族で過ごす時間や会話が減る。
- 趣味や付き合いよりも酒を飲むことを優先させる。
- 飲んでいる時間が長くなり、他のことができなくなってくる。
明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、アルコールを使用する。
有害な結果とは、
- アルコールに関連する身体の病気(肝臓病、高血圧、糖尿病、心臓病……)
- うつ状態などの悪化
- 家庭内でのトラブル
- 飲酒のために嘘をついたり、約束が守れなくなり周囲の信頼を失う
- 飲酒運転などの違法な行動、職場や学校でのトラブル
- 経済的な問題 etc・・・
アルコール依存症の特徴
誰でもかかり得る病気
- 性格的な欠点や人間性は関係ない
- 遺伝的な体質と飲み方、やり方によって、誰でもかかる可能性がある。
アルコールに関する問題をなかなか受け入れられない = 「否認」
- 他者からの忠告を素直に認められず無視する、怒る、理由付けする
- 周囲が酒に関する問題を感じていても、本人は問題と感じていない。
- 飲酒することを正当化するために言い訳をする。
周囲を巻き込む病気
- 家族全体の心と身体を冒していく。
- 家庭崩壊、離婚
- 失職
- 交通事故、犯罪
慢性進行性で死に至る
- 依存症を発症すると、二度と飲酒量をコントロールが出来る体質には戻らない。
- 飲み続ければ、病気はさらに進行し続け、最後には死に至る
治癒はないが、回復可能な病気
- 節酒やコントロール障害を克服することは不可能だが、専門治療を受け、完全断酒することで回復し、健康な社会生活に復帰することが出来る
回復には助けが必要
- 自己流でやめ続けることは難しい。
- 専門的な治療を受ける。
一生付き合って行く病気
自己管理(断酒)を怠れば再発する
通院・自助グループ参加継続 → 断酒継続に
一生この病気と上手に付き合っていかなければならない
回復していくために、病気になったことを受け入れることは必要です。受け入れることから回復が始まります。
次回はアルコール依存症によって生じる問題について、具体的に触れていきたいと思います。
参考文献:「アルコール依存症 治療と回復の手引き」
監修「高木敏・猪野亜朗」
発行「小学館」
参考HP:特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)
http://www.ask.or.jp/